シンガポール住宅賃貸の教科書
作成:中矢隆 シンガポール政府不動産エージェント登録番号(CEA Reisgtration No):R050841E
所属: PropNex Realty Pte Ltd シンガポール不動産業者登録番号(CEA Licence No):L3008022J
仮契約書(LOI)のページで説明しました、ディプロマティック条項は日本への帰任、海外への転任等を対象とした中途解約条項です。これがあれば、指定の期間(標準は1年)を過ぎた時点で通知(2か月通知が一般的)を出して解約することが出来ます。ここで注意しておきたいのは、以下3点です。
最終月のレントが日割り計算かどうかーレントサイクルの中途で通知を出した場合の最後の月のレント計算です。例えば契約期間が2019年4月15日から2021年4月14日迄の2年契約で、2020年5月2日に通知を出した場合2か月後7月1日に契約解除となる計算になります。契約上最後の月のレントが日割り計算の場合には、6月15日から7月1日の17日分の計算となります。但し日割り計算の条文が無い場合、6月15日から7月14日迄の1か月分を支払う必要があるかもしれません。以下日割り計算の条項のサンプルです。
In the event that the Tenant exercises the above clause, it is hereby agreed between the parties that the final month’s rental shall be calculated up to the day of surrender of the said premises on a daily pro-rata basis.(訳文:テナントが上記条項(ディプロマ条項)を行使した場合、最終月のレントは物件明け渡し日までの日割り計算とする。)
解約通知の仕方ー通知は書面で通知するというのが標準ですが、契約書でどのように規定されているか確認が必要です。また確実に記録を残すためにも書留郵便(Registered mail)で出すことが望ましいです。また追加としてE-メールにてエージェントから転送してもらうのも必要です。また契約条文で通知に帰任等を証明する書類を添付するという場合は、会社の辞令等を英文で作成してもらうことも必要かもしれません。証明書類の提出が保証金の返還前ということであればMOMが発行するEPの解約レターを提出すれば済みます。
未消化期間分のコミッションの返還ー通常ディプロマティック条項付きの2年契約の場合、家主は2年の契約期間に対してエージェントに家賃1か月分のコミッションを支払っていますので、早期解約された場合には未消化期間分のコミッションの返還をテナントに義務付けています。つまり1年後2か月通知で解約した場合、2年契約の内14か月分しか消化していないため、未消化期間10カ月分のコミッションを家主に返還しなければなりません。またエージェントコミッションには通常GSTが加算されていますので、このGSTを含んだ金額で計算されます。例えば$5,000の家賃ですと、$5,000 x 10÷ 24 x 1.07 = $2,229.17を返還することになります。
ディプロマティック条項が無い場合、基本的には契約解除が出来ないため契約満了までレントを支払い続ける義務があります。もしくはディプロマ条項あっても最短滞在期間+通知期間に満たない場合は、その期間を消化するまでレント支払い義務があります。とは言っても、金額がかなりかさみますので何とか少しでも少なくしたいと思います。以下の方法が可能と思いますので、試されると良いでしょう。
会社契約の場合ー会社契約の場合でも実際の入居者は特定されているのが普通です。ただ家主も同じ会社の同僚等であれば、契約が新しくなる訳ではなく、レントは会社が継続して支払い続けるので入居者の変更は割と簡単に認めてくれる場合が多いです。あるいは会社の同僚に入居者が変わる場合には、家主の許可を必要としないという条項を転貸禁止条項内に入れておくと良いでしょう。
引き継ぐテナントを見つけるー特に現行レントが市況に比較して割安等の場合、現契約の条件のままで引き継ぐテナントが見つかる可能性もあります。そうでない場合は、期間が短いとか、契約条件交渉できない等難しいかもしれません。この場合は探してもらうエージェントにコミッションを支払う必要があるのと、見つかった場合も上述の家主への未消化分コミッション返還がダブルで掛かると思います。
新期テナントを見つけるー自分たちの条件で契約をするテナント候補を見つけるか、家主側が見つければ、現契約を解除できる可能性があります。見つかった場合でも、現行レントより低いレントで決まれば差額を現行の期間中補填が必要になるでしょう。またこの場合も実際に契約が始まるまでは、レント支払いがあること、新契約開始から現行契約の残存期間の未消化期間のコミッション返還が必要です。
契約更改を希望する場合は、通常契約満了日から2か月前までに書面にて通知をしなければならないというのが普通です。書面通知は上の解約通知のやり方を参考にしてください。ただご自身の契約条文が標準と違う場合もありますので、事前によく確認しましょう。標準の契約では、契約更改については、レント支払いの遅延等の債務不履行が無いことと言うのが条件となっています。手順は以下の通りです。また標準の契約では、契約更改のオプションが1年となっている場合が多いです。その場合には契約条文は原契約を踏襲し、レントについてのみ両者合意に基づくというような内容になっていると思います。この条件ですと2年契約更改の場合は全て条件を協議しなおす必要があるということになりますが、多くの場合2年でも同じ条件でレントのみ協議するということが多いです。
日本人の方が結構嫌がりますが、この新テナント確保のためのビューイング(内見)の義務はどの契約書にも入っている条文です。日本では入居中に内見をしないというのは結構普通のようですが、これは海外では稀な例となります。シンガポールでも入居中はなるべくビューイングをアレンジしないという家主がおりますが、非常に珍しいです。
何故入居中に内見が必要かは、自分が家主の立場であれば理解できると思います。現テナントが退去してから新しいテナントを探すとなると必ず空き期間が出来ます。つまりその間レント収入がなくなり、ローンがある場合はその間自己資金にて補填する必要が出てきます。ローンが無くても投下資金回収の観点から、空き期間を少なくするのは投資の基本原則です。その為家主は出来るだけ空き期間が少なくて済むように、現テナント入居中に内見を行い早く新テナントを見つけたいということです。
そうは言っても入居してすぐに始められても困りますし、2年先の入居を決める人もいないと思いますので通常契約満了2か月前からという条件が付いています。契約更改の通知が2か月前迄というのもこれと連動していることになります。契約更改の希望があれば、内見はせずに現テナントとの交渉を行うというのが普通ですし、空き期間が無いということで余程レントが下がらない限りそちらの方が有利と家主も判断します。では以下に内見での注意事項です。
入居中に壊れたものやキズつけたり、汚したものについては明け渡しまでに修理等を完了しておくことが望ましいです。というのは契約条文には、テナントが入居できる状態(経年劣化は除外)で明け渡すと記載されているからです。つまりそれらが完了していない場合は、私の今までの経験では可能性は低いですが、テナント入居状態になる迄レント支払いが求められる可能性があります。
ここで例外として挙げられている経年劣化が、テナントと家主の間で見解が異なることが頻繁に起こります。壁の汚れや床の傷等どこまでが経年劣化として認められるのか、カーテンをクリーニングしたら破れて帰って来た、蛇口や窓のハンドルなどが錆びて壊れてしまった等々色々な問題が出てきます。日本なら経年劣化として見られるようなことでも、こちらの契約では入居中に壊れたもの等はテナントが一定額まで負担して修理するという少額修理条項があることでなおさら問題を複雑にしてしまいます。この辺は私の以下のブログで詳しく書いておりますので参考にしてください。
引越しについては、駐在員の方は会社がアレンジしてくれると思います。日本へご帰国の際には日系の引越し業者を利用されたほうが良いかと思います。シンガポール内での移動の場合も日系の引越し会社もやっているようですが、地元の業者よりはかなり高いようです。ただ地元の業者では、ものが壊れる等の心配があるかもしれません。壊れやすいものや大事なものはご自身で運ぶこと等すればコストを大幅削減することが出来るかもしれません。引っ越しは不動産エージェントの範疇ではありませんので、ここでは賃貸等に関することだけ手短に以下説明します。
専門業者による清掃は部屋の大きさにもよりますが、作業員4⁻5人で朝から午後3~4時までかけて清掃します。費用は2ベッドで$350-$450位、3ベッドで$550-$650位かと思います。作業の内容は、ある業者の見積もり書を参考に説明します。清掃業者が手を付けないのは、壁の汚れ(下手に触ると余計汚くなりクレームの元となるという理由)、バルコニーのガラス塀外側や窓の外側(メイド等が清掃中に落下事故などがあったことから政府が禁止している)ユニット外の廊下の壁など(共用部分となるので)等があります。特に清掃前に気になる点などがあれば事前に確認することが良いでしょう。
Handover Cleaning Service – Unfurnished 明け渡し時清掃業務ー家具無し(家具があると動かして清掃しなければならないため、作業量が増えるということで追加料金がかかる業者もあります。)
Scope of work: 作業内容
All Toilets 浴室
1. Cleaning and disinfect of all toilet bowl, basin and / or bathtub トイレ・洗面台・浴槽の清掃と消毒
2. Wash and wipe clean all wall tiles 壁タイルの洗浄
3. Cleaning of all switches and lights (excluding chandelier and down light) 全スイッチと照明の清掃(シャンデリアやダウンライトは除く)
4. Wash and wipe clean all floor tiles 床タイルの洗浄
5. Wipe clean mirror and cabinets 鏡とキャビネットの拭き掃除
6. Wipe clean windows and glass door 窓とガラスドアの洗浄
Kitchen キッチン
1. Cleaning and disinfect sink シンクの洗浄と消毒
2. Cleaning of cooker hob and hood コンロと換気扇の洗浄(特に油汚れがひどいこれらの清掃は重要で業者の質が出るところ)
3. Wipe clean interior and exterior of all cabinets 前キャビネットの内外の拭き掃除
4. Cleaning of all switches and lights (excluding chandelier and down light) 全スイッチと照明の清掃(シャンデリアやダウンライトは除く)
5. Wash and mop floor 床の洗浄
6. Cleaning of storeroom and maid’s room 倉庫・メイド部屋の清掃
7. Wipe clean all wall tiles and windows タイルと窓の拭き掃除
8. Cleaning of refrigerator, oven, microwave, washing machine and dryer 冷蔵庫、オーブン、電子レンジ、洗濯機、乾燥機の清掃(オーブンと電子レンジはこびりついた汚れがきれいに落ちている、冷蔵庫の内部、洗濯機はゴムパッキンや洗剤入れ等もきれいになっていることを確認)
9. Scrub and wash laundry area 洗濯機周りの入念な清掃
Living / Dining Room りニング・ダイニング
1. Vacuum and mop floor 掃除機での清掃とモップ拭き
2. Cleaning of all switches, lights (excluding chandelier and down light) and air-con surface 全スイッチと照明の清掃(シャンデリアやダウンライトは除く)エアコンの拭き掃除
3. Cleaning of all doors and glass panel doors ドアとガラスの清掃
Bedrooms / Study Room 寝室・スタディー
1. Vacuum and mop floor 掃除機での清掃とモップ拭き
2. Wipe clean interior and exterior of all wardrobes 洋服ダンスの内外の拭き掃除
3. Cleaning all windows and doors ドアとガラスの清掃
4. Wipe clean all switches, lights (excluding chandelier and down lights), switches and air-con surface 全スイッチと照明の清掃(シャンデリアやダウンライトは除く)エアコンの拭き掃除
Others その他
1. General wash of balcony and wipe clean glass parapet バルコニーの清掃とガラス塀
2. Wipe clean ceiling fans (if any) シーリングファンの拭き掃除
価格やスケジュール等
Price : $650.00 (1,593sqft.) 1.593FT2の面積で$650の見積もり
Schedule Cleaning Date : 12th May 2020 (Tuesday) 清掃日
Duration : 1 working day (9:30am – 4:30pm) 作業時間
Note: All cleaning tools, equipment and detergents will be provided すべての清掃道具・器具・洗剤は提供する
Remark: Additional $100 will be applied if the condition is very oily or dirty. (特にキッチンや浴室)が非常に汚い場合は追加料金$100加算する。【一般的な日本の家庭の清掃状態ではこの追加料金がかかることはないが、単身や独身の方で入居中殆ど掃除をしなかった方などは注意点です。ただ$100で1-2年の汚れを落としてもらえるのでしたら安いものとも言えますが、白い床などで汚れが浸みこんだようなものまでは通常の清掃ではきれいになりません。】
カーテンは基本的にドライクリーニングが要求されます。費用は重量ベースで$9から11/㎏位と運送費かと思います。またクリーニングの前後の取り外しと設置が含まれているのが普通です。ご自身でクリーニング業者へ持参すれば安いかもしれませんが、結構大変です。もう一つ注意点は、クリーニングに実質3~4日(間に休日が無いことが前提)かかります。お引越し当日まで入居している方は、カーテンなしで数日間過ごす必要があります。クリーニング業者によっては代替のカーテンを提供(1組だけとかです)してくれるところもありますが、そんなに多くはありません。その他の方法としては、カーテンの設置を引渡し後にしてほしいと要請する方法です。ただこの場合、次のテナントが決まっていないことやあくまで家主の判断です。普段から家主と友好的な関係を気付いておくことはこれに限らず大切かと思います。
ただカーテンのクリーニングで大切なことは、事前に傷み等が無いか(本来入居時に念入りにチェックしておくことが必要です)また洗濯後にも確認が必要です。日差しが強い場所に設置されているカーテンは変色もそうですが劣化が激しいです。退去時に家主側と揉める点にもなりますので、この確認は大切です。こちらのブログで遮光カーテンの問題を詳しく説明しています。また直近では日差しの強いところに設置されているレースのカーテンが劣化のため洗濯後にかなりダメージがあり、やはり入念なチェックが必要だと痛感しています。
会社契約の方はこちらから解約申請書をダウンロードして、上記の個人と同じような情報をすべて記入し、ACRA Bizfile (会社の登記内容を記載した政府諸官庁の正式書類)に取締役として明記されている方が申請書類にサインします。取締役以外の方がサインする場合には、取締役からの委任状が必要となります。これらの書類をEメールにて指定のアドレスへ送付します。
シンガポール内での引越しの場合にも、SPサービスの場合は旧住所のアカウントは解約し、新住所の方のアカウントを別に設定しなければなりません。
一番簡単な方法は電話(Singtelは1688、Starhubは1633)にて解約する方法です。通常契約期間を経過している場合には、機器などの返還は必要ありません。その他の方法としてはショップで解約する方法ですが、解約手続きができるショップは限定されています。
通常の契約期間は2年ですので、それ以前に解約する場合は早期解約となり違約金の支払いが発生します。契約開始経過期間に準じた違約金の金額は当初の契約書に記載されていると思います。まだ契約期間が長期間残っている場合には、後任者等に譲渡する方法が良いかと思います。ただこれもオンライン上でなかなか情報が見つけられません。やはり電話で手続き方法を聞くしかないようです。前に私がお手伝いしたケースでは、旧契約者と新契約者双方のサインが必要だったりと、かなり煩雑でした。
これらを全部チェックしたらテナントさんとしては、検査で出た不良事項をリストアップしそれ以外は問題無く、家主側がこれ以上のクレームはしないとする明渡し記録にサインをもらうようにしてください。ただ中には家主が同席していないことを理由に、自分は権限がないと言ってその場でサインをしないエージェントも良くおります。後で家主が確認して、追加でクレームをしてくるパターンが時々あります。
修理等の金額が合意できましたら、会社契約でもこの辺の不具合は入居者の負担となるのが普通ですので、その支払いを済ませた後に保証金の返還という段取りとなります。
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